周りの環境で運命が決まるもの
2022年、江口海里さんディレクションの展示会「COMPOSITION 03」に参加し「TWO SIDED」というテーマに対して出展した作品。
TWO SIDED=等しく両面性があるものをデザインしてください。というお題に対してそれぞれの参加デザイナーが製作を行なった。私はバングルとも、(一風変わった)箸置きとも取れるものをデザインした。
これは売られる場所によってその後の役割が変わるモノである。もし茶碗の隣に置かれて売られていたら、箸置きとして一生を送る。そしてネックレスやイヤリングの隣に売られていたらバングルとして一生を送る。そういう輪っかをデザインした。
時々、もし自分が生まれ育ったところとは違う土地で育っていたら、全く別の人間になっていただろうと思うことがある。一緒に遊ぶ友達、生活環境、学校の先生など様々なものごとから影響を受ける。思い出、好きなこと、褒められること、叱られることを経験するが、何か欠けていても、満たされていても今の自分にはならなかったと思う。時代によって常識が変わることもある。人は同じでも、周りの環境によってアーティストにもスポーツ選手にもなりえると思う。
そういう視点で考えた時、物にもこの概念が当てはまるのではないかと考えた。最初に置かれる環境によって使われ方がガラリと変わりそのまま一生を過ごす。そういうものがあると面白いと思った。
赤ちゃんのように学ぶ
アイデアを考える際、プリミティブな形のオブジェを使って、まるで赤ちゃんのようにものを見つめたり触ったりして形に潜む役割の可能性を探っていった。そうすることで逆引き的にアイデアが出ると考えた。赤ちゃんは目に見えるすべてから学ぼうとする。そしてものごとを感覚的に学習することで成長していくが、大きくなるにつれて細かなディティールを忘れてしまう。大人になった今、改めてそのような心持ちでオブジェクトに触れて言語化しまとめ上げることで、新たな気づきを得る試みを「Baby Playing the Toys」と名付けた。
「輪っか」には。輪の穴に通す、そしてそのままくるくる回す、縁にものをのせる、輪を掴んで投げる、床を転がす、手のひらと床でぐりぐりする、輪を加える、穴をのぞく、口を覆う、頭に被せる…など色々な役割が発見できたが、そのうち、「輪の穴に通す」「縁にものをのせる」を抽出し、バングルにも箸置きにもなる形を造形した。最終的に茶碗に箸を置くように使える箸置きに、2箇所の凹みが特徴的なバングルに仕上がった。単純な輪っかではなく、それぞれにもの単体としてのオリジナリティがあるのがいいと思う。
Photo by Eguchi Kairi