伝えるマテリアル

海洋プラスチックゴミをアップサイクルしてつくられたバランスタワーゲーム。

従来からある「ブロックを積み重ねていき、崩れると負け」というバランスタワーゲームを「ゴミが捨てられて積み重なることで、環境がくずれてしまう」というメタファーが投影されたゲームにとらえ直した。

「debris」 は、みんなが集まって楽しむ時間を作りつつ、自然に海洋環境問題と向き合うきっかけをつくる。

私にとって最も身近な海「幕張の浜」は、千葉県千葉市にある人工海岸である。この浜辺は休日平日問わず、隣接された野球場に訪れた客や子連れの家族、ランニングに励むスポーツマンなど、様々な人でにぎわっている。ボランティアによるゴミ拾いと、定期的な大規模ビーチクリーニングが行われており、一見ごみが少ないきれいな海岸である。

しかし私の趣味であるビーチコーミングを行っていると、清掃では拾いきれない無数の細かなゴミ(debris)が砂に埋もれていることに気づく。海岸清掃というマクロ視点では拾いきれないゴミがビーチコーミングというミクロな観察によって発見される。

ビーチコーミングをしている私からすると、風化して破片となった「ゴミ」は収集対象であり、そのゴミから様々なストーリーが読み取れて面白い。子供用のおもちゃやキャラクターの人形の一部、工業部品や焼け溶けた樹脂のかたまり、釣り具、近場のスポーツ施設から強風(幕張の浜周辺の地域はよく強風が吹く)で流れ出たであろう人口芝と三角コーンの破片……。様々なごみの色やその割合から周辺の環境や、その他様々なことが読み取れる。

一方でこれらの細かなゴミはやがて砂に埋もれ、少しづつ削られて最終的に目に見えないマイクロプラスチックとなっていく。浜辺から流出するゴミの割合は全体の数字からみると小さなものだが、マイクロプラスチックが海洋環境や私たちのくらしにもたらす影響は各所で述べられている通りである。

ごみ問題の解決には様々なアプローチが必要だが、デザイナーが貢献できることの1つは、この事象を知らない人に「伝える」ことだと思う。多くの人々はこの問題を実感していない。このプロジェクトは非常に個人的な試みである。私は実際に「幕張の浜」で拾い集めた海洋プラスチックゴミを素材と捉え、みんなが集まって楽しめるパーティーグッズをデザインした。できるだけ教育めいたものに見えないように自然にゴミの存在を伝えたいと思った。

赤い線はキャップの断面?黄色い丸はBB弾。
水色のぐにゃぐにゃは、解けた樹脂。なぜ浜辺に溶けた樹脂があるのだろう?(ごみを拾った近場には焚火の跡があった)
青いリングはなかなかないレア模様。
海を連想させる半透明のブルーとグリーンの柄。
青い点々は元はどんな形のゴミだったんだろう。
ゴミがはがれてしまった跡に、刻まれていた文字が転写されている。

このように、ゴミが埋もれた砂浜をそのまま切り出したような見た目をしており、ポップな模様や樹脂によってできた凹凸を視覚的に楽しむことができる。この素材自体、ゴミを拾う土地や季節によっても違う色傾向の絵柄ができ、建材など広い用途への展開が期待できる。

簡易な構造で廃棄も容易なパッケージ

ゴミを固める基材にはVOCフリー、有機溶剤フリーの水性アクリル樹脂を使用し製作している。

本作品は2024年4月16〜21日にミラノデザインウィーク budbrand AWARD 2024 U-25 exhibitionにて展示された。

  • 小林遣と共同制作
  • budbrand AWARD 2024 U-25 スポンサー特別賞 受賞
  • ミラノデザインウィーク budbrand AWARD 2024 U-25 exhibition(2024 4/16~21 @Tortona 5)